イナーシャリリーフ解析 CASE1

解析初心者の頃、「応力解析を行うときに不完全な拘束、すなわち剛体移動が出てしまうような状態で解析すると逆行列が解けずにエラーになるので、ちゃんと拘束しないといけない。」と教えられたものでした。

どこかを拘束しないと解析できないなら、航空機が空中を飛んでいるときや、船が海上を進んでいるときに外力を受けた場合の解析はできないのでしょうか。拘束がない場合の解析と言うと、弱いバネを付けて不安定性を回避するとか、フリーフリーのモーダル解析(固有振動解析)のことを連想するかもしれませんが、ここで言うのは通常の応力解析なのでこれらとは違う話です。拘束のない構造物に普通に線形静解析を行うはどうしたら良いかということになりますが、そんなことはできるのでしょうか。

実はこういう場合の解析手段として「イナーシャリリーフ」という機能があります。この機能を用いると、宙に浮いた状態での静解析を行うことができます。昔はあまり一般的ではなかったようですが、今では多くの解析ソフトが標準で備えている機能です---とは言え線形静解析でしか使えない手法のため、非線形解析が主な用途として開発されたソフトへの実装は遅かったようです。理論と言うより、計算上のテクニックとも言える解析ならではの手法ですが、あまり書いてあるのを見たことがないので2ヶ月にわたってご紹介します。
今月はCASE1として「重心点を拘束する方法」について掲載します。

イナーシャリリーフ解析
構造物が空中を飛んだり水に浮いているような拘束がない(もしくは不安定な)状態において外力がかかった場合の解析手法にイナーシャリリーフがある。通常、プログラムに組み込まれていて、どのような処理をしているかわからないのであるが、ここではその解析手法を考察する。

解析モデル


イナーシャリリーフ解析モデル

支持されていない状態(たとえば無重力中に浮いている状態)において上記の棒に荷重Pをかけたときの変形を求める。普通に静解析を行ったのではエラーになって解析できない。そこでこれをどう解くのかを考察する。

CASE 1
重心点を拘束する方法

Step1

全く拘束がないとエラーになるので節点4を完全固定して静解析を行う。
解きたいのはもちろん、この拘束がない状態の静解析である。

Step2

Step1では節点4を拘束して解析を行ったが、このとき拘束がないとすれば、棒のZ軸廻りの慣性力とY方向並進の慣性力に対してY方向の並進力が釣り合うことになる。そこでStep2ではまず重心点にZ軸廻りの回転加速度荷重をかけて静解析を行う。加速度の大きさはわかりやすいように-1とする。

Step3

次に並進加速度による静解析を行い、これをStep3とする。加速度の大きさはこれも1とした。

まとめ

以下にStep1〜3の結果をまとめる。

さて、実際に求めたいのはStep1において拘束がない状態の静解析です。しかし解析ができないので、頭で考えてみましょう。

無重力中に浮いている棒に外力がかかれば外力によって棒は変形します。その時に外力と棒に働く慣性力が釣り合っているはずです。これはStep1、Step2、Step3の荷重ケースすべてが作用して釣り合っている状態です。ただし棒は拘束されていてはいけないという条件が加わります。これをすべて満足すれば良いのです。どうしたら良いでしょう。

拘束されていても拘束されていないのと同じ状態にする。それには拘束点に拘束反力が生じなければ良いのです。つまりStep1、Step2、Step3の荷重ケース線形和を行い、結果として拘束点反力が0になれば良いということです。

前ページ表中のα=0.22222、β=66.66667として結果を線形倍してStep1〜3を足し合わせれば拘束点反力がキャンセルされ0になります。下記に足し合わせた結果を示します。

節点荷重、慣性力が全て作用し、反力が生じていない状態です。

変形図を示します。

以上を整理すると、手順は以下になります。

@重心点を拘束し、静解析を行い、拘束点反力を求める
A重心点を拘束したまま回転加速度をかけ反力を求める
B重心点を拘束し、並進加速度をかける
C荷重ケース@〜Bの拘束点反力がキャンセルされて0になるようAとBの倍率を定め、全荷重ケースの線形和を求める

注意しなくてはいけないのは、モデルの慣性主軸の原点において慣性主軸に沿って加速度をかけることです。さもないとカップリング効果により、回転加速度に対し並進反力が生じたり、並進加速度をかけたときに回転加速度が生じてしまい、うまく拘束点反力がキャンセルできなくなります。

そう言われると気づくと思いますが、それでは重心点に節点がないモデルはどうすれば良いのだろうか、重心点を完全拘束できなかったらどうすれば良いのだろうかということになります。

そこで、次は重心点を拘束しない方法について考えてみましょう。

CASE2へ続く